中岡真珠美 個展 : SCALE PUZZLE

会期終了

2019年11月7日 - 12月1日

'Still Life / Press#1' _ 930x930mm _ キャンバスにアクリル _ 2019
アートフロントギャラリーでの初個展から10年が経過したこの秋、中岡真珠美の新作近作を展観する個展を開催します。

この間、中岡が描いてきた対象は主に日常では見過ごされているような街なかの建物や周辺の器物で、人工物の直線と緩やかな自然界の曲線が織り成す情景です。中岡の絵筆にかかると武骨ともいえるこれらのモチーフが美しい色彩とフォルムに置き換えられ画面全体が清楚なハーモニーを奏でます。同時に誰もが知っている原爆ドームや京都のお寺など、見る側が作品の向こう側に自身のイメージを重ね、中岡独特の色使いや質感をそのものとして感じられる作品も多く生み出されました。輪郭をとどめながらも主張のある余白の上にゆるやかに溶け出し、アクリル絵具の滲みや樹脂系塗料の艶やかさが画面に奥行を与えるスタイルはよく知られています。

そんな中岡がタイで過ごした1年は制作の姿勢を見直す契機となりました。チェンマイ大学での学生とのやりとり、周囲を見渡せばすべてが目新しい対象の坩堝に投げ込まれる中、画家として、日本文化を具現する者としてのアイデンティティを自問する日々でした。

今回、ギャラリーに展示する静物画は自ら色粘土で作った静物を絵画の上に置いて描かれています。立体感が排除され、周囲の地の中に浮遊するかのような静物の作品、或いは僅かに絵具の物質の分だけの厚みをもって前後感が構成されている作品など新しい試みがうかがわれます。平面性の強調は、壁面を分割して埋め尽くすドローイングでもみてとれます。2015年の個展では山の中の廃屋を定まった点から分割し再構成することでの視線を泳がせましたが、今回描かれるのは作家のアトリエでもある室内画。観るものの眼差しをどのように揺さぶるのでしょうか。

もう一つの部屋では風景のシリーズが展示されます。ギャラリーの南側には旧朝倉邸の庭園が広がり、かつては600本の樹木が鬱蒼とした森の様相を呈していました。現在では樹木も整備され公開されていますが、中岡はこの奥行のある林間の風景に興味を持ち、自ら撮った写真をベースにして作品化し、それを他所の「林間」と並べて展示します。

多様な制作プロセスで描かれる二つの空間を味わっていただければ幸いです。
営業時間11:00 - 19:00 (月、火休)
レセプション2019年11月7日(木) 18:00-20:00

みどころ

'Still Life Clasp#1' / 400x390mm / キャンバスにアクリル絵具 / 2019
'Untitled' / 320x285mm / キャンバスにアクリル絵具 / 2019
'Still Life Press#2' / 490x495mm / キャンバスにアクリル絵具 / 2019

中岡真珠美の個展によせて

尾池和夫京都造形芸術大学学長

 2019年、真珠美さんが新作を発表すると聞いて、こころが踊った。きっと目を見張るギャラリーに出会えると確信する。
 真珠美さんの絵は、4次元空間から生まれるこころの中の「風景」である。この作家だけが見る風景が、アクリルのキャンバスに描かき出される。描かれたその2次元の世界を見る瞬間、それを勝手に自分のこころの風景にしてしまうことができるのである。
 彼女は、「例えば、キャンバスには家を描くんだけれども、家の形を説明するために描くのではなく、イメージを表現する為に使う。無意識の中の琴線に触れられるカタチをまさぐって、キャンパス上で表皮(膜)となってあらわれるものをかたどっていく」といったことがある。
 その頃の彼女の絵には、ほとんどの場合、具体的な風景のキャプションがあった。その風景は、採石場であり、原爆ドームであり、廃屋であり、ときには楕円という題になったり。
 しかし、絵からそれらを見いだそうと努力することに意味はない。見る私は勝手に自分なりのキャプションを想いながら、あるいは無心に、きれいな色を眺めていればよい。
 2004年2月9日月曜日、私は中岡真珠美さんに京都大学百周年時計台記念館で感謝状を渡して、しばらく話す機会を得て、瞬間を切り取る俳句のことを彼女に話した。その前に彼女の絵に出会った時、俳句と同じだと思っていたからである。俳句は瞬間を切り取るのだが、その瞬間を表現するために、試行錯誤しながら作品に仕上げる。
 その後、何度か彼女の個展を見る機会があった。アクリルでキャンバスという作品は、2004年の「FALL line」、2006年の「Drip」でも同じように続いていた。2012年7月13日、アメリカ合衆国総領事館の近くで見たときには、ギャラリーに入った途端に目に飛び込む色の変化が強くこころに残った。
 さて、今度はどのようなひらめきを、私のこころに与えてくれるのだろうか。それがとても楽しみなのである。

2019年5月8日

出展作家

中岡 真珠美Masumi Nakaoka

作品を描くときに対象となる風景を写真におさめ、その景色そのものを描くのではなく、反覆するイメージから不定形な新たな輪郭を描いていく。その平面の地は、色彩やメディウムの構成に置き換えられることで物質感を失いながら、記憶の断片のようなモチーフをつくりあげていく。樹脂塗料、カシューを用いたその平面の質感も含めて、独特な平面作品を構成している。最近では山間の廃屋や皇居前の松原などをモチーフとしてとりあげ、浅い遠近感を創出すべく、視点を定めた画面の分割、構成や多視点から描くことで対象に近づくなどの手法を取り入れている。海外でのレジデンスも含め活動の幅を広げている。