角文平個展「記憶のボリューム」

会期終了

2025年09月12日 - 10月25日

野生の記憶 - 熊の頭, 2025 340 x 220 x 150mm 熊の土産物、鉄、塗料
アートフロントギャラリーは、国内外で注目を集めるアーティスト・角 文平(かど ぶんぺい)の個展「記憶のボリューム」を9月12日から10月25日まで開催します。

角は2012年以降、当ギャラリーでの5度にわたる個展をはじめ、瀬戸内国際芸術祭、百年後芸術祭などにも参加し、着実に活動の幅を広げてきました。銀座・京都・ミラノのエルメス店舗におけるウィンドウディスプレイを手がけるなど、その表現は国内外で高く評価されています。2025年5月より韓国で初の個展も開催され、今後ますます国際的な活躍が期待される注目の作家です。
角の作品には、緻密な構造や素材感の中に、どこかユーモラスな魅力が感じられます。
建築史家・建築評論家の五十嵐太郎氏が「ユーモラスな寓話のよう」(※)と評し、建築家・建築史家の藤森照信氏が「(角の)作品には、最初からある種の微笑ましさというか、笑いのようなものがありますよね……こうやって見ると、あなたの作品と私の建築が、なんか似ているね。」(※)と語られています。
※『Bunpei Kado Housing』より引用
営業時間火~土 11:00 - 17:00
休廊日日曜、月曜、祝日
トークイベント【要予約】
2025年9月12日(金)18:30~ / 登壇者:中野仁詞(キュレーター・アートプロデューサー)×角文平(アーティスト)×北川フラム(アートフロントギャラリー代表)
*下記URLからご予約ください
https://forms.gle/sNHZGNZQCSjBHCpR6
レセプション2025年9月12日(金)19:30~
特別協力吉忠マネキン株式会社

みどころ

本展では、角がこれまで手掛けてきた作品シリーズの中から、古来日本では、長年使われた物には魂が宿るとされ、「付喪神(つくもがみ)」として神格化される思想に着想を得た「記憶」シリーズに焦点を当て、新作を中心としたインスタレーションを展開します。

これまで木製の古道具や遊具などの物体をモチーフに、道具に宿る記憶を表現してきた「記憶」シリーズですが、今回の展覧会で新たな展開を迎えます。

Room 1:[記憶の被膜シリーズ]人の記憶を可視化するインスタレーション
バルーン状の頭部を持つ人型作品の内部には、過去の体験や記憶を想起させる仕掛けが施され、個人の内面世界と記憶の構造を象徴的に表現します。

Room 2:[野生の記憶シリーズ]土地・環境に根差した記憶への拡張
これまでの「記憶」シリーズの延長線上にありながらも、新たな素材として“土”を取り入れ、土地や環境に根ざした記憶へとテーマを拡張。木製の古道具と土や植物を組み合わせることで、個人だけでなく「場所に宿る記憶」へのまなざしを深めます。

角文平の作品が問いかけるのは、物に宿る時間、人や場所に蓄積された記憶、そしてそれらに向き合う私たちの感覚です。ぜひこの機会に、記憶と物質が織りなす静かで奥深い対話をご体感ください。
新作《記憶の皮膜 2025 #01  ドローイング》2025、490×415×30mm、 技法 紙にドローイング
「記憶のボリューム」展示風景、2025
「記憶のボリューム」展示風景、2025
新作《記憶の皮膜 2025 #02》2025 / 1770×傘、FRP、映像、衣類

角文平 記憶のボリューム

中野仁詞キュレーター / アートプロデューサー
京都芸術大学大学院准教授
東北芸術工科大学客員教授

 筆者は角文平くんと、2017年KAAT神奈川芸術劇場「詩情の森-語り語られる空間」(《空中都市》、《SPACE HOUSE》)、2022年神奈川県民ホールギャラリー「ドリーム/ランド」(《Monkey trail》四つの作品からなるインスタレーション)の二度ほど展覧会をともにする契機に恵まれた。キュレーターとして関わった展覧会で、角くんの作品と対峙するたびに、筆者はいつも、引力の研究領域である物理・数学などの科学といった、常に感性とは相反する概念の存在を感じていた。通常、科学は真理を解明(証明)する営みであるが、美術、音楽、建築、ダンス等身体表現を含んだ現代芸術の表現は、広大な感性の海(世界)のなかで作者が鑑賞者との共鳴(共感)の仕方を模索する。しかし角くんの世界は、科学の概念とアートとを、人類の歴史を介在させながら混合する。科学・芸術の関係が相反するものではないということを実感としてわれわれに伝えている。

 角くんの作品を拝見する際、特に実感するのは、地球の引力の存在である。われわれの住まう家など、日常的で当たり前の存在であるものも、われわれの身近にはなく普段は意識しないものも、もちろん森や田畑など様々な場所に生育する木々や植物なども、空から俯瞰すれば、すべて一様に地上にへばりついている。引力でくっついているのである。われわれ人間が地に足をつけて歩行し、地上に根を下ろしてしか生きていけない存在であることを、厭でも思い起こしてしまう。そしていったん引力の存在に意識が向くと、地球規模で世界を眺める目で、地上から遠く離れた宇宙に至るまでをすべて見通したくなる。角くんの作品は、そうした鑑賞者の目に応えている。人の目の高さから遠近法のように横方向に広がる世界も、地上から天空に至る縦軸の方向の空間も、しっかりと捉えている。

 このような角くんの縦横の空間の捉え方とその表現世界について、筆者は次の三つの階梯があると見立てたい。
1、「地景」……われわれが歩き、家を建て生活をし、生まれてから生涯を過ごす日常的な時空。引力に引っ張られ地に足がつく世界。
2、「中景(中像)」……地上の引力から離れて上方に向かう中間の状態。仏教では、死後、現世と冥界のどちらとも魂の在処が決まらない49日間を{中宥|ちゅうう}と位置付けている。
3、「天景」……引力から離れ宇宙空間に浮かぶ人間の作り出した空間。

 本展では《記憶の皮膜》と題されたインスタレーションが発表される。このインスタレーションでは、風船や気球バルーンの中に文字の書かれた紙片や映像、蛍のような光などが取り込まれ、角くんがこれまで取りまとめた様々な記憶が鑑賞者の記憶と交差し、コミュニケーションが図られる。角くんのこの世界にわれわれが入り込み体感した際、われわれは角くんが彼の独自の視点から思い描き作品に取り入れる地景、中景、天景のどの位置にいるのかを認識し、お互いの「記憶のボリューム」の中に接点を見出すだろう。

 そのシーンを、角文平くんは、どこかでくすっと笑いながら眺めていることだろう。まずは、彼の創造した世界にわくわくしながら進入してみよう。

アーティストインタビュー

角文平 インタビュー「見えないものをどう形にするか」

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出展作家

角 文平Bunpei Kado

1978年福井県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科金工専攻を卒業後、身近な日用品や既製品を素材に、詩的かつ幻想的なインスタレーションを制作している。既視感のあるオブジェクトを組み合わせ、光や空間の操作によって新たな意味を立ち上げることで、日常と非日常の境界を揺さぶる表現を展開。作品はしばしば「箱舟」や「庭」「家」といったモチーフを通じ、宇宙的なスケールと人間的な営みを接続させる試みとなっている。これまで「百年後芸術祭-内房総アートフェス」「瀬戸内国際芸術祭」をはじめ、韓国・台湾・シンガポールなど国内外で作品を発表。2020年にはSanwacompany Art Awardでグランプリを受賞。銀座・京都・ミラノのエルメス店舗におけるウィンドウディスプレイを手がけるなど、その表現は国内外で高く評価されている。主要な企業や公共施設にも作品が収蔵されている。