阿部は人物の肖像や風景を写真に撮り、パソコン上で画像に分解、色見本に沿って木製のキューブを着色することで曖昧な平面を創り出す。阿部岳史の作品から伝わってくるのは、人の記憶や感情、気配などあいまいで不確かなものの存在です。着色されたキューブの几帳面な配列によって表されているのは、主に人物や風景ですが、それぞれが持つ固有の特徴を限りなく削り落とした姿です。色の配列としての情報だけが再現されることで、阿部が選んだ対象物はモザイクとなり人物や風景を特定する特徴や詳細が取り除かれていきます。こうして色のキューブとなった断片の集合は、鑑賞者それぞれの記憶の中のピースで補完されてふたたび像を結び、匿名的(アノニマス)な存在から鑑賞者にとって固有の「だれか」「どこか」へと還元されていきます。機械的でドライな作風に見えますが、人の中に眠る記憶を引き出して視覚と認識の間にあるごく個人的な感情を揺さぶります。