「Breaking History」は二つの独立した水彩画のシリーズで構成されています。最初のシリーズは、「Women in Black」と題されています。喪に服しているかのように黒い服に身を包み、白い花を手にした女性たちによる静かな抗議活動に捧げられたものです。ウクライナへの侵攻に反対するこれらの抗議活動は、ロシアのさまざまな都市で行われました。参加者のほとんどは女性でした。もともと、女性による反戦活動がとても盛んだからです。デモ参加者は拘束されることもあれば、されないこともありました。この抗議活動の形態は、第一次インティファーダ(訳注)の時、イスラエル兵の暴挙に対するイスラエルの左派の女性活動家たちによる抗議活動に由来します。その後、世界各地のフェミニスト団体によって、自国政府の行動を批判するために取り入れられるようになりました。これらの作品で使用した最近のロシアの抗議活動の写真では、当局が活動家を特定できないように、頭部が切り取られていることが多々あります。ロシアでは今の状況を議論する際に「戦争」という言葉を使うことが禁止されているため、デモ参加者はこの言葉をアスタリスクや他のスローガンで隠すなどして、平和を訴えます。それでも、デモ参加者が当局の迫害を完全に免れることはできません。私はこれらの作品の中で、こうした代わりとなるスローガンを使うこともあります。
大規模なデモはすべて暴力的に弾圧され、デモ参加者は刑事責任を問われるため、ロシアでの反戦デモはほとんど外国に伝わりません。そのような状況下でも、反対運動は新たな装いをもって行われます。たとえその抗議がお通夜のように見えても、たとえどんな圧力があっても、不正に対して声を上げることは可能だ、という信念を共有するために、私はこれらの作品を制作しました。どんな形であれ、私は戦争に抗議する勇気を持っているすべての人と連帯します。
二つ目のシリーズは「Take Lee Down」です。米国バージニア州リッチモンドにある南軍の将軍ロバート・E・リーの記念碑が解体される過程を描いています。社会の歴史に大きな変化があるとき、往々にして過去の象徴の破壊がつきものです。記念碑は倒れ、新たな理想を具現化するためのスペースができるのです。それは30年前のロシアや東欧で起こったことであり、現在の北米で起きていることです。アメリカに住んでいる私は、もう一つの歴史の転換を目の当たりにしました。リー将軍は消え去り、変化の可能性が生まれるのを待ち望む大きな空白のスペースが残されています。
私の作品において、人物は常に注目の中心にあります。武力紛争の際、人間の姿はしばしば人格のない記号的な存在となります。人間の身体は、紛争に加担し、立ちすくみ、あるいは足元から崩れることで、純粋に機能となっていきます。私の人物は、あるときは身体的な存在によってあるときは不在または徐々に消えていく存在として定義されます。この二つのシリーズは、人物の二つの状態を例示しています。「Women in Black 」は、その存在によって抗議を示すものであり、リー将軍の記念碑は物理的に不在にされています。
すべての作品の背後には個人的な物語があり、私の作品は視覚的に物語を伝えるものと言えるでしょう。「物語を伝えることは、何かを解決するわけでも、壊れた人生を再構築するわけでもない。しかし、おそらくそれは、想像を絶するものを理解する方法なのだろう。ある物語が私たちにつきまとうなら、私たちは自分自身にそれを語り続け、シャワーを浴びる時も、通りを一人で歩く時も、眠れない夜も、静かにそれを反芻するのだ。」 (*1) 私は常に脳裏を去ることのない、意味のある声を探し、作品を通してその声を強めたいと思うのです。
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訳注:1987年、イスラエル占領下のパレスチナ人が展開した、投石などを主体とした民衆の抵抗によるパレスチナ解放運動。
(*1) バレリア・ルイセリ(2017), Tell Me How It Ends. ロンドン, フォース・エステイト, P70.