クレリア・チェルニックエコール・デ・ボザール教授。哲学者、美術批評家
アートフロントギャラリーは、ジョグジャカルタで活動するインドネシアのアーティスト、エコ・ヌグロホの個展を開催します。代官山のアートフロントギャラリーと瀬戸内国際芸術祭の伊吹島で開催される2部構成の展覧会は、国境と移民についての問いを投げかけます。移民はハイブリッドでカモフラージュされた姿として提示され、国境の概念無しにいずれかの世界に属することの難しさを明らかにします。痛みを伴い、引き裂かれたこれらのアイデンティティーは、視覚パズルのイメージを色やモチーフに置き換え表現されます。
エコは「一見偽りの安心を与える、より強靭で凶暴な私たちの社会における見えない壁」と自身が描写する過剰な線や形態や有り余る連動するイメージの集積で、 壁と国境の問題に取り組みます。鑑賞者は、大げさなまでに子供っぽい陽気な色のイメージの背後にある巨大な絡み合う線と感覚を目の当たりにします。 エコは線の明快さを悪夢の迷路に置き換え、展覧会を超えて日常生活の背景まで及ぶ困難な解読に私たちを誘います。顔の正面性とコラージュは、ストリートアートだけでなく、風景のモチーフを取り入れた典型的なインドネシアのアートを連想させます。さらに、エコの作品は、戦いと生存の芸術であるカモフラージュを思い起こさせます。自らをカモフラージュするということは、外敵を避ける恐怖によって個性を変えることです。
鑑賞者を自分たちの環境から分離し、偽りの境界線もしくは国境について再び問いかけるアートフロントギャラリーと瀬戸内国際芸術祭の展覧会で、 エコは、グラフィティや草木が生い茂る風景のような、とても早く重厚なリズムを用います。私たちは、偽物の境界と真の断絶の間において、再び境界線をなぞらなければなりません。
力強い視覚的なインパクトとシンコペーションされたリズムの感じられるエコの作品はジャズに近いと言えるかもしれません。自由なスタイルと革新性そして彼の人となりは、極めて魅力的で戦闘的でさえあります。さまざまな素材を絵画、ドローイング、刺繍、彫刻、壁画、3D で用い、修復、反復、断絶を用いることで、エコは鑑賞者を、夢中になるような空間へと導き、色彩の誘惑、線、偽の轍と戯れさせます。エコはホワイト・キューブ(アートフロントギャラリー)や伝統的な民家(瀬戸内国際芸術祭)で展示することで国境における逆説的な関係を提示します。壁は私たちがあると思うところに常にあるわけではなく、逃げたいという欲求や消失への渇望が生む膨大なモチーフが作るものだということを示します。どのように逃げるのか、どのように出口を見つけるのか。象徴的な壁はすべての現実空間と仮想空間の中で増える続けるのでしょうか。
これらのリズミカルなインスタレーションを通して、エコは、盲目的な居心地の良さと引き換えに個々のアイデンティティーを破壊する私たちの社会における見えない壁と戦います。