ここ数年にわたり、木曽や飯豊町など豊かな自然の中で展示やワークショップなどを行いながら、古くから存在する場の意味を読み解こうと山本晶。2021年の個展では地図上で体験したトポスと実際の地形とのずれをモチーフにした地図のシリーズが注目されました。その後も場とアートの関係を問い直し、風景をモチーフにした作品に新たなレイヤーを重ねていく姿勢は、山本の様々な表現形式に反映されています。山の中から都市まで、闊歩しながら制作する作家の新作をぜひご覧ください。
展覧会のタイトル、Quick Moment について作家は「いきいきとした時」という意味をこめ、以下のように説明しています。「いきいきとする、気持ちがはずむ時は大抵意図しない出来事によって日常と非日常の隙間を体験してしまう時だと思います。
ある音を騒音の中で聴いたとする、あるいは静かな環境で聴いたとする。それが響くか響かないかは環境だけではなく、受け取り手、主体の感度によって違うと思います。意図しない出来事はもしかしたら気がつかずに通り過ぎているかもしれません。
しかし、それも含めて実は視界に入っていることに変わりはありません。
はずむ時、それは一瞬でもあり、体験によって永い滞空時間となります。」
今回はそんな曖昧な体験へといざなう平面作品を設置します。
みどころ
今回の油彩画は、東京の地図がモチーフになっています。主に流域地図、海水面が上昇し、内陸へ入り込む、東京湾の縄文海進に焦点をあてています。「東京」に内包された、海も川も巻き込むような東京湾の複雑なイメージが、山本独特の明るい色彩を纏って作品となりました。
《海から陸を見に》2023 キャンバスに油彩 805 x 1303mm山本は、長野県でも行っていた流域リサーチを山形県置賜郡飯豊町で滞在リサーチ(キュレーター:加藤絵美)。新潟から米沢へ繋ぐ越後街道の古道、「塩の道」をテーマとしました。「塩の道」の標高差を30枚の板に曲線でカットし、真っ白な雪景色の中で赤・緑・オレンジへとつなげたものです。飯豊町は林業が盛んなので廃材となる木の板を使いました。
実際に『「塩の道」踏査報告書』を出版した源流の森インタープリテーション協会の方から話を聞き、古道の一部である大館山をスノートレッキングし、分水嶺から塩の道を確認した上で制作を行いました。
《森の道》シリーズ作家コメント ポリフォニックな状態になってはじめて色彩は発生するものだと思ってます。油彩をを描くにあたり、ここ3年ほど地図をモチーフにしています。
地図は未開の土地の物語を伝えるツールであり、フラットな標準言語のようなものでもあります。国土地理院地図のように緻密でのっぺらぼうな地図でも、それぞれの人がフラッグを立ててみたら、立てた人の数だけ物語があります。このポリフォニックな状態は色彩の発生と大きく関わってきていると思います。
風景を切り取るだけでなく、地図や地形のリサーチを通じてその背後にある物語を掘り起こした上で色彩を操っていく、現在の作家の作品をぜひ、目撃してください。
《尾根を歩く》(参考)2023 木材にペイント、各500 x 300 x 40
出展作家
作家が見た風景をもとに、形や影などを色面で構成する平面作家。はじめの頃は抽象表現主義のような勢いのある筆致を特徴としていたが、文化庁在外研修員として渡米した2005年あたりから作風に転機が訪れ、窓や建造物の構造といった都市的・幾何学的な部分を切り取って頭の中で構成するスタイルが中心となっていったようだ。近年はこれに加えて映画のパノラマを見るように一画面に多視点を同時に創出するなどの試みも行っている。様々な色のスキームが楽しめる作家でもある。