バルセロナの版元で制作された「ポートフォリオ/ガレリア ジョアン プラッツ 1976-1988」のなかから、20世紀の巨匠たちのオリジナル・リトグラフやエッチング、昨年から今年にかけてアートフロントギャラリーで個展を開催した現在活躍中のアーティストの絵画など、自然をテーマにした洗練された作品群が、私たちに新鮮な驚きを与えてくれます。
作品展示作家: エドアルド・チリダ、クリスト、ホアン・ヘルナンデス・ピジュアン、ケネス・ノーランド、アントニ・タピエス、ツーゼ・マイヤー
中岡真珠美、阪本トクロウ、山本晶、竹中美幸、日比野充希子、西澤利高、祐成勝枝、浅見貴子
出展作家
作品を描くときに対象となる風景を写真におさめ、その景色そのものを描くのではなく、反覆するイメージから不定形な新たな輪郭を描いていく。その平面の地は、色彩やメディウムの構成に置き換えられることで物質感を失いながら、記憶の断片のようなモチーフをつくりあげていく。樹脂塗料、カシューを用いたその平面の質感も含めて、独特な平面作品を構成している。最近では山間の廃屋や皇居前の松原などをモチーフとしてとりあげ、浅い遠近感を創出すべく、視点を定めた画面の分割、構成や多視点から描くことで対象に近づくなどの手法を取り入れている。海外でのレジデンスも含め活動の幅を広げている。
作家が見た風景をもとに、形や影などを色面で構成する平面作家。はじめの頃は抽象表現主義のような勢いのある筆致を特徴としていたが、文化庁在外研修員として渡米した2005年あたりから作風に転機が訪れ、窓や建造物の構造といった都市的・幾何学的な部分を切り取って頭の中で構成するスタイルが中心となっていったようだ。近年はこれに加えて映画のパノラマを見るように一画面に多視点を同時に創出するなどの試みも行っている。様々な色のスキームが楽しめる作家でもある。
松や梅などの庭先の樹木が黒い墨のタッチで画面いっぱいに描かれている。和紙の裏側から大きな筆で一つ一つ楕円形の墨を置いてゆき、紙の表面ににじんだ痕跡が作品となるこの手法は、偶然をきっかけに生まれたものだという。以来10数年にわたり作家は入念な写生を基に何回となくこの手法を繰り返し、そのたびに少しずつ異なったテクスチュアを作り出してきた。屏風などの大画面も手掛け、現代の水墨画の一つの在り方と位置づけられて美術館に展示される機会も多いが、最近の作家は青色を中心とした色を加えてモノクロの世界から一歩踏み出すなど新たな挑戦を続けている。
竹中美幸は初期では余白をいかした柔らかな色彩で描く種子のシリーズを描いていた。その後竹中の主軸をなすようになった樹脂の作品は、雫型の樹脂を数枚のアクリル板にたらした層アクリル板にたらしたもので、光を反射しその影を落とす。水彩絵の具で描かれた繊細なにじみとともに影が映りこみ、作品外部にある光の条件を取り込んで、様々な表情をなげかけてくる。竹中の作品は一貫してその作家性を主張しながらも空間に柔らかくとけこみ、パブリックスペース、住宅を問わず幅広い場に調和し、新たな空間を創出する。2013年にはフイルムに恣意的に光を露光することで色を与え、それを複数の層として重ねることで見えないはずの光、あるいは光によって初めて見えるようになるはずの何かをフイルムという物体を通して可視化する作品も発表した。
阪本はどこにでもありそうでどこにもない風景をアクリル絵具で描く。時には余白を大きくとり、空や山、道路、送電線、信号機、公園の遊具といった風景を切り取り、人間の不在を強く意識させる。地図シリーズでは空からみた地上のようすがポジとネガの二色で彩られ、夜景シリーズでは都会の夜が黒地に白い点で示される。水面を描けばオールオーバーな画面に光琳波のようなモチーフが筆跡を残さずに現出一方で、広重のような前景と後景からなる江戸期の浮世絵を連想させる構図も見出される。阪本はこうした様々な風景を描きながらも、実は何もないことを描いているのではないかと自問している。対象の周縁や風景を描くことで対象に近づこうとしているようである。