この作品のモチーフである岩手県大槌町・臼沢地区は、郷土芸能「臼澤鹿子踊り」で知られています。田中さん本人も2015年から、この臼澤鹿子踊り保存会の方々にお世話になり、踊り手の一員として臼澤祭りにも参加しています。大槌祭りは町なかを門打ちしながら練り歩く祭りで、彼女はその祭りに2年間続けて参加することで復興工事による町の変化を目の当たりにしました。海に近い低地ではかさ上げ工事が行われており、かつての生活の記憶が土の下に隠されていくように感じたそうです。
また、大槌町には至るところに自噴水があり、源水川にはバイカモやイトヨが生息しています。そんな中で暮らす人々にとって生活の仕組み、暮らしの歴史、人と人との交流は、湧水にまつわる記憶として語ることができるのかもしれない。しかしそれらがかさ上げの土によって埋もれていくということを、この土地に暮らす人々はどのように受け止めているのだろうか、という事を考察しながら描いた作品だそうです。
2015妻有作品(インスタレーション)撮影:中村脩田中さんは民俗学者の岸本先生の指導のもとで、「とびしまむかしがたり」という山形県酒田市飛鳥にまつわる民話を再収録し、小学生5年生向けに絵と解説を交えて紹介する絵本を制作しました。この作品の「倶利伽羅龍岩の奇話」はその中の一話です。舞台は飛鳥の西側にある小島、御酌島と呼ばれる女性禁制の聖地で、中はむきだしの岩肌が荒々しい洞窟になっています。洞窟の壁面は竜の鱗に例えられ、濡れて金色に光り輝き、その奥に御神体とされる観音様の岩陰があります。作品は、船の乗組員が御酌島の中に入り祈りをささげている場面ですが、その中の一人が美しい岩を盗み出してしまおうとしている場面だそうです。
「波間の町(水舟)」 550×1000mm
「倶利伽羅龍岩の奇話」 440x1150mm