豊福亮 初個展記念インタビュー「僕はなぜ黄金の作品をつくるのか」

2025年07月10日

アートフロントギャラリーでは初となる、豊福亮 個展「黄金の境界」を7月25日から8月23日まで開催いたします。

豊福亮さんは、2006年の「大地の芸術祭」に参加以来、各地の芸術祭で作家としてはもちろん、作品制作のサポートやアートディレクションなど、様々な形で私たちと協働してこられました。
この度、豊福さんの個展が日本で初めて開催されるにあたり、インタビューを行いました。

※フルバージョンの動画は、会場にて公開予定です。

個展「黄金の境界」について

ーー今回の展覧会のタイトル「黄金の境界」について、教えてください。

豊福亮《天女像》2025新作 / 2020×2940×220mm Photo by hiroshi noguchi

「黄金」にはいろいろな意味合いがあると思うんです。まず、金は絶対に色も質も変わらないという特殊な金属です。千年、二千年と昔のものが、今、同じ姿を保っている。そういう時間を超える素材にとても興味を持っています。
また、大地の芸術祭が開催されている越後妻有では、冬は一面真っ白、夏は真緑になります。金は、そういう自然の色に対抗する色であり、最もケミカルな、欲のある、人間らしい色です。それを斜に構えた感じで、ちょっとふざけた感じで扱っているところがあります。
黄金という身近でない色に出会った瞬間から異世界に入る、違う次元の流れの中に身を置くという意味を込めて「黄金の境界」というタイトルになりました。

ーー豊福さんの作品は、黄金でさまざまなモチーフを覆っていますが、そのモチーフはどのように選んでいるのですか?

僕はいろいろなところに旅をするんですが、田舎に行くとポツンと集落があって、誰に見せるわけでもないようなお祭りがあるんです。そして、そこだけの関係性の中で「異形なるもの」が出てきたりする。それは外部から来た人間からするとすごく面白い。そういう、その土地で有名な伝承や嘘みたいな話が、作品の種のようなものになっていて、頭の中で組み合わせることでいろんな作品ができているんです。今回はそれを一つの形にしようと思いました。

ーーこれまでは芸術祭という場での制作がほとんどですが、今回ギャラリーで展示するにあたって、何か感じたことはありますか?

豊福亮《黄金の海に消えた船》瀬戸内国際芸術祭2025 Courtesy of Office Toyofuku

もともと大学で絵を描いてたので、四角の中にイメージや世界を作ることはできるんです。その方が実感が湧くというか。それが積み重なって、芸術祭でやってるような作品ができている…と言えるかは分からないんですけど、でもその一つだとは思うようにしています。そして、今回の瀬戸内国際芸術祭で「黄金の海に消えた船」(2025)を作って、一つやりきった感じがあるんです。
僕にとって、そもそも芸術や美術に対する考え方は、サイトスペシフィックなことしかないんですね。お祭りを作りたい、それこそ違う世界に入るためのものを作りたい。その中で自分がイメージしているものを今回の展覧会でやってみようと。いわゆるドローイングやマケットの部類だと思っています。

ーー今年の3月から、香港で展覧会「豊福亮的黄金之境」が開催されていますね。香港のみなさんはどのような反応でしたか?

香港の個展「豊福亮的黄金之境」の様子
Courtesy of Oil Street Art Space 圖片由油街實現提供

香港の風景を300枚ぐらいの絵に描いて、茶室を作りました。街で撮った写真も置いています。それらを見ながら「これはあそこだ、あそこだ」って反応してくれたり、「こんなふうにしてくれて嬉しい、これは香港人に向けたラブレターのようだ」って言ってくれたりしました。そういうふうに感じてくれるんだなと思います。

これまでの芸術祭における作品展開

ーー豊福さんご自身について伺いたいと思います。美術に関わるようになった経緯を教えてください。

高校を卒業する時に自衛隊に入ろうとしたんですが、もうちょっと勉強した方がいいと思って、大学に行こうと思いました。その時に仲の良かった先生が美術の先生で、芸大は国立だよって。じゃあ行こうかなみたいな感じだったんです。当時何にも情報がない中で、芸大に行くにはただ絵を描かなきゃいけないと思って、油絵を描き始めました。3年間浪人したんですけど、辛いと思ったことはなくて、結構楽しかった。

ーー豊福さんは、2000年に大地の芸術祭が始まる前から芸術祭のことを知っていたと伺いました。

旧大島村におけるContinue art project『美の楽校』の様子(作家提供)

大学1、2年生の頃に、川俣正さん(1953-)の仕事を見て衝撃を受けました。ああいうサイトスペシフィックなことがしたくて、いろんな人に声をかけて、旧大島村(2005年に上越市に編入)に廃校が3つほどあったので、そこで夏にキャンプみたいな感じで作品を作っていました。
そうしたら隣町で「芸術祭」っていう何かすごいことが始まるみたいだと。本当に偶然で、全く知らなかった。どういうことだ?これは聞くしかないと思って、フラムさんっていう人いますか?って急に事務所に行ったらいらっしゃらなかったんですが、後日フラムさんが連絡をくれたんですね。そこからフラムさんを追いかけ回して、一緒にお仕事をさせてもらうようになりました。

ーー最初に大地の芸術祭で、作品を制作されたのは2006年、第3回の時でした。これまでの芸術祭の作品について教えてください。

豊福亮《天竺》大地の芸術祭2006 Photo by T. Kobayashi

フラムさんが何かやってごらんよって言ってくれたので、いろいろプランを出したんですけど、もっと好きにやっていいんだって言われて。世界遺産やウルトラゴシックの建物など、なんでこんなのができるんだ?みたいなものに興味があったので、それを作ろうと思って出来たのが《天竺》です。全部を真っ金々にしますって言ったら、よくわかんないけどやってごらんよって。自分の周りには人がいっぱいいたので、徹底的に手数の入ったひどいもの、ああいう風景の中では全然似つかわしくないものを作りました。

豊福亮《黄金の遊戯場》大地の芸術祭2024 Photo by Nakamura Osamu

《黄金の遊戯場》は、2015年から作り始めたんですけど、作ってるうちに考えも変わってくるし、やりたいことも変わってくる。だから永遠に作り続けられるような場所があると面白いなって思っています。まだお風呂場が空いてるので、お風呂に入れる作品も面白いかなと。

豊福亮《黄金の海に消えた船》瀬戸内国際芸術祭2025 Photo by Shintaro Miyawaki

芸術祭にずっと関わらせてもらっていると、子供や、美術を普段全然見ない人もいっぱい来てくれます。そういう人たちは哲学的な作品ばっかり見ても盛り上がらないだろうなと思って、もっとアトラクションみたいなのを一回やってみたいなと。《黄金の海に消えた船》は全体が竜宮城っていうイメージで、遊べる要素を少し入れてみました。

いろいろな顔を持つアーティスト、豊福亮

ーーいちはらアート×ミックスや内房総アートフェスでは、アートディレクターとしても関わっていますね。千葉、房総への想いを教えてください。

豊福亮《美術室》いちはらアート×ミックス2014 ワークショップの様子 Photo by Osamu Nakamura
豊福亮《里見プラントミュージアム》百年後芸術祭 2024 Photo Osamu Nakamura

生まれは東京ですが、すぐに千葉に引っ越して育っているので、こういうこと(芸術祭)が千葉で起こるのは嬉しい。千葉に行くと自然もあるし、遊園地もあるし、なんかある、みたいになるといいなと。
アートディレクターはフラムさんに対する憧れからで、いろいろ勉強したいと思っています。

ーー豊福さんは株式会社 Office Toyofuku(以下、OT)という会社を立ち上げ、芸術祭などで作品のインストールにも取り組まれています。他の作家の作品制作に関わることについてはどのように考えていますか?

芸術祭で他作家の作品制作を行うOT(作家提供)

いろんな作家さんの作品を作っていくことは、僕には案外抵抗がないんです。例えば、ロシアの作家さんの作品を作っている時も、亮はどうしたらいいと思う? みたいに聞いてくれたりして、やりとりができて。
自分の作品もチームでやります。最初に僕がこうやってやろうよって言ったら各々その場に合わせてやってくれる部分がある。自分の作品も、他の作家さんの作品も、同じような気持ちでできているというか。
いろんな作家さんの作品制作をするのは勉強になるし、面白いですよ、結構。

ーーOTのメンバーをはじめ、豊福さんの周りにはたくさんの人がいらっしゃいますね。どのような人たちなのでしょうか?

予備校(※)をやっているので、その卒業生が手伝ってくれて、という流れがあります。
また学生時代に一緒にやっていた人も。美術系の大学で、みんな専門的なことをやっているので、「これどうやってやったらいい?」「あいつに聞けばわかるね」といったことも結構あります。

※千葉美術予備校。美術大学進学のための予備校の経営も行っている。

ーーOTの代表として、どのようなチームを目指していますか?

大地の運動会2024で、OTが入場門を作ってくれました(作家提供)

まず「芸術祭全体をすごく面白く作りたい」って思ってやっているわけです。
チームとしては、みんな楽しくやってくれればいいなと思いますが、ただ、ちゃんと意味があることを一緒にやりたいなとは思います。芸術祭を作る過程では、集団で、ちゃんと作品の成り立ちを考えて組み立てて、いろんな意見を出し合ってやらなきゃいけない。その都度雇うのでは継続性もないし、経験も積み重ならない。なので、芸術祭や予備校、それぞれの収支を相互にやりくりしながら、単発ではなく、継続的にみんなに仕事してもらえるような形を作っています。それは会社としてのメリットだと思うし、芸術祭でちゃんと仕事ができる要因かなと思います。

ーー作家や、アートディレクター、OTの経営など、様々な側面をお持ちですね。

別に作家としてこう、ディレクターとしてこう、経営者としてこうとかっていうんじゃなくて。それらを全部ひとまとめにして、いろんなことが積み重なった上で、いろんなことが出来上がるという考え方でいいんだなっていうふうに思っています。

ーー最後に、今回の展覧会に来られる皆さんにメッセージを!

ぜひ瀬戸芸の作品や妻有の作品も見ていただきたいと思います。それがあってのこれ、これがあってのそれなので。いろいろと関連付けて見ていただけると、僕が何を作っているのかわかってもらえると思います。ぜひいらっしゃってください。

開催概要
豊福亮「黄金の境界」
会期   2025年7月25日(金)~8月23日(土)
休廊日  日曜、月曜、祝日、およびお盆休暇期間(8月12日~8月15日)
時間   火~土 11:00-17:00
会場   アートフロントギャラリー
     (〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町29-18 ヒルサイドテラスA、1F)
イベント 豊福亮×北川フラムクロストーク
     2025年 7月 28日(月)19:30~ ※レセプションは18:30~
     お申込みは以下のリンクから
     https://forms.gle/gbdtSZYZzTRjgKXQ6

豊福亮(とよふく りょう)
1976年東京都生まれ。千葉を拠点に活動。自らが見て、聴いて、経験した外的世界を、視覚的・体験的・相互作用的な仕掛けによってプロジェクトとして表現し、人々が集う空間を生み出している。歴史や風土など、その土地に特有の要素を参照しながら、サイトスペシフィックな作品を継続的に制作。制作の過程や完成した作品を舞台にワークショップを行うことも多く、作品を通じた他者との関わりをテーマとしている。2000年に株式会社OfficeToyofukuと千葉美術予備校を設立し、学校長として美術に関わる人材育成にも力を注いでいる。これまで「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」などに参加し、土地の歴史や風土を取り入れた作品を発表。「いちはらアート×ミックス2020+」(2021)や「百年後芸術祭」(2024)ではアートディレクターを務め、活動の幅を広げている。