ウクライナ作家のグループ展「亀裂を見つめてⅢ」開催中。トークイベントが開催されました。

2026年2月20日

「亀裂を見つめてⅢ」(2026) 展示風景

アートフロントギャラリーでは、ウクライナのアーティストによるグループ展「亀裂を見つめてⅢ」を開催しております(会期:2026年2月6日~2026年3月19日)。
本展は、ウクライナ現代美術を代表するアーティストであり、キュレーターとしても活躍するニキータ・カダンのキュレーションにより、出国制限等のために国を出られないウクライナのアーティストたちの作品を紹介しています。厳しい現実の中で生まれたウクライナ現代美術の「今」を紹介しながら、未来への希望を伝える場となることを願っています。

本展開催にあたり、2026年2月6日に開催されたトークイベントと映像作品の上映会の様子をお届けします。

ウクライナ美術の今

まず、早稲田大学教育学部複合文化学科教授・鴻野わか菜先生より、ウクライナ美術の現状についてご講演いただきました。カダンさんと今回の出展作家の紹介がありました。

「本展は従軍中の作家が戦地で合間を縫って制作した作品が出展されていますが、彼らは可能な限りアーティストであり続けようとしており、本展はこのように不可能な状況で作られた美術に捧げられていて、それはウクライナのみならず、芸術の普遍性を表しています。」

ダナ・カヴェリナ「灰色の大地」上映

次にダナ・カヴェリナさんの映像作品《灰色の大地》の上映が行われました。本作は製作途中のバージョンで、戦争下の現実をアニメーションで描いた作品です。負傷した兵士が仲間を探す場面と、ドローン攻撃によって解放された牛が荒廃した外界をさまよう場面によって構成されています。上映前にカダンさんから説明がありました。

「今回の戦争を体験しているのは人間だけではなく、動物であったり植物であったり、または大地そのものがどのような体験をし、何を感じているのかを見てもらえると思います。彼らはなぜ戦争が始まったのか理由さえも理解することができないまま、大きな影響を受けています。」

  • ダナ・カヴェリナ《灰色の大地》の一部

ニキータ・カダンによるトーク

上映後、カダンさんのトークが行われました。その一部分を紹介します。

「私は現役のアーティストですが、ウクライナでは、戦争以前からキュレーションの制度的インフラは十分に発展していませんでした。その分、アーティスト同士が互いを巻き込みながら活動を続けてきました。もちろん国外に避難する人も増えていますが、国内に残っている人たちが活発に活動を続けています。私は2014年にアーティスト・グループ「R.E.P(革命的実験空間)」に加わり、そこからキュレーションの経験を積みました。」

「亀裂」というタイトルが示すもの

「今回の展覧会のタイトルにもある『亀裂』ですが、これはウクライナの歴史が最初から最後までずっと続いてきたものではなく、途中で何回も途切れていること、またこのような状況の中で私たちの生活も部分的に停止している、ということを表しています。

今回の『亀裂を見つめて』の第3弾は、極めて不可能な状況の中で芸術を作り続けている人たちの作品を展示しています。徴兵され、軍に動員されながら作品を作っている人もいます。時間も素材も限られた、残酷で限界に近い状況で活動しているアーティストたちの作品です。」

女性作家の視点

「男性は芸術、技術、スポーツなどの分野で活躍している人を除いて出国の制限がされていますが、その手続きも難しくなってきています。もしかしたら私がその制限を通過できた最後の人かもしれないと思っています。

今回の展示の中には二人の女性アーティストの作品があります。先ほどの映像作品の作者であるダナ・カヴェリナさんと、マルタ・スィルコさんです。二人の作品に共通しているのは最前線で戦う兵士や負傷した兵士たちを現実的に描いているということです。徴兵された作家たちはこのような戦争の現実を描くことは少なく、物事を妥協なく構造的に見るためには戦争からある程度の距離が必要なのかもしれません。そういう意味でこの2人の女性作家の作品はとても価値のあるものだと思っています。」

  • ダナ・カヴェリナ「キジバトへの手紙」2020

戦争から生まれる作品

「今回の展示では他の人たちの声を届けたかったので私の作品はありませんが、少しだけ自分の作品について話します。

たとえば彫刻作品では戦争で破壊された実際の建物の残骸を使って作品を作っており、その実践は2014年から続けています。前回の攻撃時と違うのは、以前は作品の材料となる破片を拾いにウクライナ東部のドンパス地域まで通っていたのが、今は自分の家のすぐ隣で見つけることができるということです。」

ニキータ・カダン《ホストメリとケルンの彫刻》2022

「ロシア軍はこの攻撃をウクライナとロシアの共通の歴史や文化を守るためと訴えていますが、皮肉なことにその象徴であったはずの第2次世界大戦で活躍した旧ソ連の兵士像でさえも壊されています。破壊されたモニュメントはもともとの目的を果たしているのでしょうか?それとも現在の戦争の証となっているのでしょうか?」

スーツケースから始まった展覧会

「この展覧会は移動する小さな展覧会として始まり、ポーランドとドイツを巡り、豊島での展示を行いました。瀬戸内国際芸術祭とは別に非公式で行われました。自分の意志でスーツケースにいろいろな人の作品を詰め日本に持ち込み、豊島のランドスケープの中で展示しました。この展示を見た人はたったの3人です。しかしこの展示の目的は人間よりも先に自然や風景に見せたかったのです。その時にフラムさんから今度このような展覧会をギャラリーでやりましょう、みんなに見せましょうという提案をもらいました。スーツケースから始まった移動する展覧会ですが、本来であれば簡単に国境を越えられる量の作品です。同時に、本来であれば簡単にできるはずの作業が今のウクライナではできないということも表しています。」

  • 「亀裂を見つめて」豊島での展示、2025

戦争で失われた二人の作家

続いて今回の参加作家の紹介と、合わせて今回は展示がない2人の作家についての話がありました。

「2人は2025年に戦争で命を落としました。一人はマルガリータ・ポロヴィンコさん。多くの技術を用い多様な作品を作った作家です。爆破されたダムによって起こった洪水から動物を助けるボランティアや、前線で負傷した兵士を安全な場所に避難させる活動を経て、ドローン・オペレーターとして従軍していましたが、2025年の4月に亡くなりました。血をインクとして用いる作品や、戦争で亡くなった子どもたちを描こうとした「天使たち」シリーズが残されています。戦争が終わるまでにこの数が増えるとわかっていても、このシリーズを描こうとしました。」

  • ウクライナ軍のユニフォームを着たマルガリータさん

「2人目はデイヴィッド・チチカンさん。私の年齢に近く、アナーキーの活動に活発に参加していましたが、2025年8月に前線で亡くなりました。アナーキーが発展し始めた19~20世紀の歴史に詳しく、そのようなアートについて私も初めて教えてもらいました。従軍してからも作品制作を続け、作品を見るとユニフォームを着た兵士などが描かれています。現実に近い描写ですが、彼と同じように左側、アナーキーの考えを持った人たちが多く描かれ、作品によってはそのような考え方が象徴的に表れているものもあります。」

  • ユニフォームを着たデイヴィッドさん

「今度、戦争で亡くなったマルガリータさんやデイヴィッドさんの展覧会を行い、記憶に残るようにしたいと思っています。

キュレーションという言葉は、ラテン語の“世話をする”に由来すると、大体の本の1ページ目に書いてあります。今のウクライナでのキュレーションは、亡くなったアーティストの世話をすることでもあると思っています。」

北川フラムからのコメント

最後に北川フラムよりコメントが寄せられました。

「ニキータさんに関わってもらう際には出国の問題などデリケートな問題がたくさんありました。ニキータさんは今の状況で自分の使命ややらないといけないことをやっていて、もはや歴史に対してどう動くかという立場で活動しています。今日は外国関係者や政府関係者も集まっていますが、普段はこのようなデリケートなことは話さないようにしているかもしれません。多様な意味で日本も壊滅的な状況になってきていますが、今日この場で展示とイベントが実現し、みなさんが集まっていることに大きな意味があります。ニキータさんのアートを通して多くのことを知ることができました。このような状況の中で個人の持つ思想や資質がどれだけ大切になってきているかが分かります。このような縁をありがたく思います。」

トークイベントのアーカイブ映像(全編)の視聴をご希望の方は、こちらからお申込みいただけます。

展覧会情報「亀裂を見つめてⅢ」

【会期】2026年2月6日(金)~3月19日(木)
【営業時間】水曜~日曜、祝日 11:00~17:00
【休廊日】月曜、火曜
詳しくは、こちらをご覧ください。